| 昔、まだカラオケなんかなかったころ、ピアノ・バーというのがあって、ピアニストが客の歌に合わせて伴奏をしてくれた。僕がジャズファンだということを知っている店のママが、なにかジャズナンバーを歌ってよ、などとけしかける。そこで、まあ、下手ながら「オール・オブ・ミー」などを歌うことになる。しかし、歌うといっても、何調で歌うのかは当人もわかっていない。だが、そこはさすがにプロのピアニスト。こっちが歌い始めると、うまい具合にバックを付けてくれる。僕がワンコーラスを歌い終えて、ピアニストの方に合図をすると、ピアノソロが始まる。そしてピアノソロが終わりそうになると、眼と顎で合図をしてくれるのだ。顎でボーカルが入る瞬間を教えてくれるわけだ。そしてつつがなくエンディングということになる。なかなか気持ちの良い一夜である。 じつは、それと同じことをサックスでやりたい。 もちろん、プロの(あるいはアマチュアでも上級者)のピアニスト、ベーシスト、ドラマーにお付き合いいただくことになる。そこで僕が曲がりなりにも最後まで吹ける曲を演奏することになる。調(だいたい自分で吹いている曲の調が分からない)もテンポ(何拍子かもわからない)もすべて僕に合わせてもらう。そしてもし僕が間違えたとしても、それは間違えたのではなく、わざとそのように演奏しているのだという解釈で、バックの方々がフォローしてくれるのだ。 そういう奇特なミュージッシャンって、しかしまあ、いないだろうな〜〜〜。
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